第13区間 フィルスホーヘン〜ブラシャティチェ

         ボヘミアの森を越える一人旅  畑 俊一(4期)


9月28日 (月) 雨 ドナウの自然とともに
 ドナウ河畔のフィルスホーヘンからバッサウまでの24km。雨のなか、一日中傘をさして歩く。タクシー運転手のコラーさんに教わり、整備された左岸の遊歩道をコースにとる。左手には深い森林が迫り、右手はドナウの緩やかな流れがすぐ足元を洗う素晴らしい小道だ。ただこの日は人影は殆どなし。雨具に身を固めてベダルを踏む年配の男女各一人が簡単な挨拶を交わして過ぎた。
それに代わり、自然観察に関わる豊かな思い出が手帳を埋める。ワレモコウの群落、サトウカエデの草葉、赤いリンゴの実をついばむシジュウカラ。そしてドナウの岸辺からはマガモやキンクロハジロ等カモ類が飛び立ち、遠い川面にはコブハクチョウの姿も望まれる。バッサウまで時速6kmで快適に飛ばした。
<右写真 ドイツ・パッサウにて、ドナウの下流を望む>


9月29日(火)曇り後晴れ[森の"キジ場"にびっくり!]
今日もバッサウをべースに、フレオングまで38km街道(B−12)を通勤型で歩く。黒木 が主な森林と牧草地が交互する中、2車線の自動車道が伸びる。ガスが時に深く対向車に 神経を使う。途中、レストラン等は全くなく、歩行者もまた皆無・ヒガラやホオジロの声 を聴きながら行くと、中型のヨーロッパハリネズミの死休に出くわしてピックリ!そう言 えば、「シカに注意」、「ヤマネコが排個」等面白い標識もあったっけ。
 昼過ぎ遂に我慢ができず、文明諸外国では最初の"小キジ打ち"を針葉樹の小経で経験する。 終わって視線を転じると、やや!例のキジ紙があちこち雨に打たれて散乱しているではないか。 ドライブ族の仕業と推察したが、洋は東西を問わずと妙な点で納得する。
 午後からは陽射しが暑いが20℃どまり。コッペパンをかじりスポーツ用ドリンクを採りながら頑張る。 欧州マッムシソウと思われる咲き残りの一株に出合った。今日は平均時速5・4Km、7時間で全行程を歩いた。 地ビールがうまい!

 
9月30日(木)快晴  [国境越えの前哨戦?]
フレオングからのドイツ・チェコ国境を越えてブラハティナェまで55Kmは、ポヘミヤ山中(標高1300−1500m級)のため宿泊施設が無いものと予想された。そのためドイツ側国境フィリップスロイトまで車で行き、フレオングへの街道(17Km)を逆に歩き予定コースをつなぐことにする。
時折り車が通るがなんとも素晴らしいポへミヤの森の中を行く。歩行者皆無。ドイツトウヒらしい見事な黒木の森にブナやシラカバの黄葉が映え、時にヒガラが鳴く。今日はまことにさわやかな秋天。ブナの落ち葉を拾いながらゆっくりと歩く。
 突然、後走して来たドイツ警察パトカーが前方で止まり、二人の警官から手招きされる。神妙に近付いて挨拶する。 旅券提出を求められ、チェコから来たのかと英語で問われる。一人が無線で旅券番号を照会し、よろしいと言われる。
 そして1時間後!今度は対向車線から来た別のパトーカーから再び尋問を受ける。
−−チェコ国項を越えて来たかのか?職業は?と続け様に聞かれる
−−国境は越えていない。ドイツ領内から戻ってきた。職業はフリー編集者。
−−何の雑誌か?とひっつこく聞く−−仕方がないので英文の名刺を出す
−−医学博士か?−−いや、薬学だが、このあたりの自然がとても素晴らしいので歩いて楽しんでいる
−−そうか、自然が好きなんだね。−−分かったようなことを宣う.最後は旅券番号を同じく無線で確認しOKとなる。
この間、30分のロスタイム。彼等と別れてから、「こんちくしょう!」と小声で呟く。
 その後、細かい枝道に出入りする2〜3のパトカーに出会うが、さすがにもう停止を命ぜられることはなかった。 国を守る警察官の律義さ、融通の無さに感心しつつ?、一方旧東欧圏からの密入国に慎重なこの国の現状も判るよう な気がした。我が身を願みれば穴だらけの時代ものサブザックに薄汚れた外装(安全対策 )、なによりも本ルート唯−の歩行者であったのだから。
<右写真 チェコに入りLeonolaからVolaegへ向かう長い道、”It's a long way”>


10月1日 (木) 曇  ボヘミヤの森からチエコ共和国へ
 徒歩でチエコ国境(標高960m)を越え、プラハティチエ迄38kmの長い道を歩く日。気温15度C。ドイツ側管理事務所の前でタクシー運転手のコラーさんと握手して別れる。
手続きを終えたチエコ共和国係官は "Enjoy your stay" と笑顔で見送ってくれたが、ここを徒歩で通過するツーリストは年間を通じ殆どいない様子。
まずはチエコ5万分の1地形図の集落、スツゥラズニイを目指す。今日は移動のため背中の荷(10kgを超えた)が重いが、下りのためまずはさほど気にならない。相変わらず黒木の林の中を行くが、林相がドイツ側よりまばらとなり明るく開けた印象。ただ道端のごみがチェコ側に入り急に増えたのに気づく、何故か? 
さて道が東に大きくカーブを切り林の中にスツゥラズニイの集落が姿を見せる。これは何?なんと農家の作業小屋を思わせる掘っ建て小屋が、道の両倒に長屋形式で並んでいるのだ。住民は一見、東洋風容象。彩色された人形のお面を売っているが、派手な広告のストリップ小屋まで一丁前にあるではないか。難民あるいはジプシーの人々?と見たがいかがか。
たまに通る車はスイスイ走り、歩いているのはただ小生一人。左右の視線が痛いと記しても、不自然ではあるまい。交流を図ろうという気持ちにはとてもなれず、こんな時こそパトカーが通ってほしいと思いながら先を急ぐ。ドイツ働の警戒もなるほどと思わせたものである。
ここから最初の町らしい町ホラリーまで、森杯帯と牧場の美しい風景が続く。しかし背中の荷物がずっしりと厳しい。日本では珍鳥オオモズの群れを見るが、プラハティチェまでは更に速く、もう写真をとる気にもならずほうほうの呈で宿舎に辿りついた。