水あたり(水が変わりますので、お気をつけて) 跡部輝彦(6期)

旅行に出るときに「水が変わりますので、お気をつけて」というような声を掛けられた記憶がある方は少なくないだろう(皆様、それなりのお年だから)。「水が変わる」「水あたり」これ何のこと????

東南アジアやアフリカ等の発展途上国へ旅行された方は「バーでグラスに氷が入っていたらヤバイぞ」とか「絶対に水道水を飲むな」とか言われた記憶が必ずあるでしょう。
これらは、単純に、「非衛生的であり、本来殺菌されているハズの水道水でも細菌がウヨウヨだよ」という事です。 しかし、「水が変わる」トイウ言い方はおそらく江戸時代以前から日本文化にはあったのではなかろうかと邪推している。

私がウズベキスタンに駐在していた時に、水に関しても何か書いたような気がします。
その時は、英国人、フイリッピン人と一緒のアパートで暮らしていたので、食堂で彼等との交流を通じて、日本人とフイリッピン人はガス入りと硬度が高い水はともに敬遠するが、英国人はそれが好きであると言うことを知った。
アゼルバイジャンでは水は豊富であったので、あまり注意しなかった。その前のグルジアでは有名なボルジョミの水(これは相当硫酸鉄が多く硬度の高い水)をガブガブ飲んで翌日皆で下痢したことが記録に残されているので、それとなく、「水あたりは細菌によるばかりではないよ」と話してはいた。

カザフスタン西部へ出かけた初日には、何も準備が出来なかったので、2日目の朝に昼食のナンの調達はナビ担当者にまかせて、私は水の調達に向かった。予想通り、大部分がガス入りで勿論、硬度の高い水であった。3軒目にヤット硬度が低いガスなしの水を発見した。
これはポピュラーなブランドより10%以上も高価であった。そんなこともあろうかと、出発直前に配達されたJAL Global Clubの会報AgoraにMineral Waterの記事が出ていたので、関係部分のコピーを持参し、理学部化学出身のナビ氏に渡したが、残念ながら、少しも関心を払ってくれなかったので、通訳に銘柄を指定して「水を買うならコレ」と命じた。
しかし、あるとき、大都市で指定銘柄の補給を怠って、水が切れる事態が発生した。
しかたなく、ガス入り(しかなかった)のPet瓶を購入したが、案の定、不評であった。その為に故障者が出たかどうか、記録にも記憶にもないが、不評は明らかであった。 今回はアルマトウイを3回も通過したので、その度に指定銘柄の補給をしたので、水不足は全く無かった。

水質と健康状態とどんな因果関係があるのだろうか?
Mineral Waterは瓶のラベルに分析値が記入されている。しかし、ほとんどの人は目にしない。日本で売られているのはほとんどが硬度が低い水である。世界的に有名なフランスのevianやVittelは硬度が高い。
さて、硬度とはなんだろう?言うなれば溶解しているカルシュウムとマグネシュウムの濃度だ。硬度178mg/lit.未満、187-357,357以上と3段階で、軟水、中間、硬水となっている。
日本は幸いにして降水量が多く、山が急峻で平地が少ないので、雨水が硬度成分を高めるヒマもなく流れてしまうのだ。また火山が多いので火成岩でほとんど覆われているのも無視できない。永年に亘って軟水を飲みつづけてきた我々のDNAは「硬水は異物だ」と認識するようになってしまっている。従って、味覚も問題もあるが、硬水を飲むと入り込んだ異物を早く排出すべく、下痢という状況が生じる。
最近は「ダイエットの為に硬水を飲む」という風潮が若い女性の間で流行りだしているとの噂もあるが、現にフランスのContrexという超硬水は硬度が1551もあり、利尿作用が強いとパリジェンヌの間で人気が高いそうだ。ちなみに、日本の水道法によれば、硬度は300mg/lit.、全溶解固形物は500mg/lit.を越えてはならない、となっている。
カルシュームがある程度多いと味が甘味を帯びておいしいと言われる。マグネシュムは苦い、鉄は渋い。勿論、世の中には天然のガス入りの水(炭酸ガスを注入しなくても自然に入っている)もある。

仮に、中央アジアや中国にてラベルの記載が理解できない場合には、何でも数字が小さいもの、出来れば、トータルが500以下のものを選べば日本のミネラル・ウオーターとあまり違わない。ガス入りかどうかは、ボトルを指で押して見れば判る。もし、判らない方は、日本でコーラの類とミネラル・ウオーターのPet瓶を押して見て違いを理解してください。

話は硬度から細菌に移ろう。
最近の新聞の話題ではイラクでは米軍の爆撃で上水道が破損し、送水管もジャジャ漏れだし、水圧が低いので下水道等からの汚染で子供たちが病気になると言う記事があった。何年も前からバンコックなどでは同じようなことが言われている。
即ち上水道が不完全で、新築ビルがビルの上のタンクへポンプ・アップするときに周囲の汚水が上水道に吸い込まれるので汚染するのである。
日本の水道基準では、蛇口にて残存塩素が存在しなければならないことになっているので、まだよいが海外の水道は給水設備で1ppm程度塩素を注入すればあとはどうなってもわれ関せずであるから、不完全な処理をした水がその直後ならいざ知らず、時間がたてば、仮に上記のような汚染がなくとも、細菌が繁茂する可能性が高い。これが東南アジアやイン・パキの恐ろしいところである。

今回のカザフスタン東部では特に下痢で悩んだ事例はあまり知られていないが、西部の時には私が食中毒で嘔吐に襲われた。石塚、森両氏が雪中待ちぼうけにあった日の昼食は通訳、運転手を含めて5名で一緒に取ったが私のドンブリのデリバリーが最も早かった。
手にすると、熱い筈のラグマンが生ぬるい。多分、ドンブリに汚れた水がたまっていたのか、前の客に出しそこなって冷えてしまったのに、少しの熱いラグマンをかけたのを出したのだろう。
このような、明らかに外部からの異物進入による嘔吐や下痢は全て放出してしまう、というのが私の処理法で、放出後は皆とウオッカを楽しむことが出来た。

似たような食中毒は20年ほどまえ、「大地の子」の上海宝山製鉄所のネゴの時に、10名ずつほどが通訳(日本人)を中心として毎食同じテーブルで食事をさせられていた。上海蟹の時期で、酔蟹というマオタイ酒に生きたままの蟹を数日放り込んでおいたものを食べるのだが皆気持ち悪がって手を出さない。私は3人前頂いて30分ほどしたら、嘔吐と下痢の両方に同時に襲われた。

カザフスタン西部では生野菜をよくたべたので、下痢が多かったように思う。野菜もさることながら、どんな水で洗ってくれたかが問題だ。 日本以外では生ものに手を出さないのが安全に旅行する鉄則だろう。勿論、バザールでのサンプル試食は厳に慎むべきだが、いくらでも手を出す剛の者もいる事も事実である。

上記の話は、対馬海峡を渡るまでは記憶のどこかに、(引っ張り出せる状態に保って)記憶しておいて頂きたいと思う。

本駄文を書くには和田さんから添付のFileを頂いたのでその気になった次第です。 しかし、「和田さんち水道」には価格以外の何らの数値の記載も無いので、評価の対象外とさせていただきます。